インフルエンザ

週に1本 はたちの私

或る文学少年の夢/ziplock




青春の面影を、僕たちはどこかに求める。混沌としていて、けれどもまぶしく大切なものに感じる青春を。もう戻ることのできない、遥か彼方の青春を。

 神奈川県のとある公立高校の軽音部で結成されたziplock。初対面の部員30人ほどの中から、なんとなく集まった5人。バンド名もただ響きが良かっただけ。さあ、何の曲をコピーしようか。ただの高校生バンドであった彼らが、こんなにも琴線に触れる音を放つとは思っていなかった。高校卒業に伴う活動休止にむけて制作されたオリジナルアルバム「或る文学少年の夢」。

 なんといっても、Vo./Gt.クボのソングライティング力に尽きる。日常における彼からは見られない、ほとばしる熱さが楽曲からは感じられる。これが高校生が書いた曲なのか。日々の葛藤の中で音楽を愛し、「君」を求める。すべてが昇華されて、スペイシーな空間が広がる。これを実現させるメンバー4人の能力も素晴らしいものである。しかし、彼らは自らの能力に無自覚であろう。クボの曲へ敬意を払い、理解に努め、楽しんで演奏する。それだけであろう。それだけで実現できるだけの能力を持ち合わせた4人が出会えたこと、恵まれたことである。

今回のアルバムには2曲のインスト曲が含まれている。M1”或る文学少年の夢”では、同じリフを用いながら順々にパートが増え、最後には幸福感が待っている。ラヴェルボレロを連想させる。君に振り向いて貰えなくても、僕は君を見守り続ける。自分の立ち位置を見出だせた少年の幸福感で締めくくられる。M5”真空”は2分という短い曲でありながら、ziplockの真髄といえる曲である。メンバーの個性が必要最低限の時間でありながら、必要最高限に発揮されている。このインスト2曲で、ziplockの振り幅の広さを感じられる。

 ハイライトはM5“Nostalgia”。ziplockで最後に制作された曲であり、発表された曲の中で最も優しい。<僕のいない世界で君は、笑えてますか?>と最後に囁く。今までは、ずっと君を思い、孤独からの解放を諦めていた。しかし、やっと二人は結ばれたのだ。だからこそ、僕のいない世界でも君は大丈夫、笑えていますか?と問いかける。<何処へ向かうのかは 何処で叶うのかは 今は分からなくて>君と僕の信頼、ひとつの「終わり」と「始まり」の曲である。力強く振り絞られる歌声は、きっと今日も誰かの胸を打つ。

ziplockがこのアルバムで活動休止してから1年経った。彼らが再稼働するという吉報はまだやってこない。ずっとやってこないかもしれない。それでも、彼らの音をもし、もう一度、もう一度聴けるなら、私は喜んで涙しよう。私の青春のために。私の青春の面影、ziplockのために。

(2014.10.22)